『  崖の上で  ― (2) ―  』

 

 

 

 

 

 

 

  ぱしゃ ぱしゃ ぱしゃ ・・・  垣根の木々に水をかけてまわる。

バケツから水を直接手で汲んでいるので たちまち裾やら足元が濡れてしまった。

「 ・・・ あ ・・・ 」

フランソワーズはすこしだけ眉を顰めたけれど 手を止めることはしなかった。

「 お水、早いほうが木が喜ぶって ・・・ 言ってたもの。

 それに ・・・ こんな <怪我> しちゃったんだもの、たくさん飲まなくちゃね。 」

愛しそうに見回す木々は どれもこれもどこかに焼け焦げがある。

葉っぱや枝の一部が焦げていたり、酷いものは細い幹の半分が焼け落ちてしまっていたりする。

垣根自体は 新しい建材なのだが、植えてある木々の様子は惨憺たるものだった。

 ― それだけここは猛火に包まれたのだ ということを物語っている。

「 あ そうだわ! お水だけじゃなくて ・・・ 肥料もあげなくちゃ!

 う〜〜ん??? なにをあげればいいの?  どこで売っているのかしら・・・

 コズミ先生に相談してみなくちゃ ・・・ 」

パシャ パシャ パシャ ・・・ バケツが空になるまで庭中の植物に水をあげた。

スカートはびしゃびしゃ サンダルも足もずぶ濡れだ。

「 皆 ・・・!  頑張ってね!  ― ここがまた緑のお庭になるころに

 そうよ、きっと ・・・ きっとジョーは目を覚ますわ ・・・ 」

 

  ぽとり。  濡れたスカートの裾に 涙がもうひとつ、滲みをつくった。

 

 

地下帝国での壮絶な闘いの後 ―  サイボーグ達はなんとかこの地に戻ってきた。

かつて、いや そんなに以前ではない日々、 ここに拠点を置こう、ホームにしよう! と

笑いあい喜びあった地は ・・・ 無残は焼け跡となっていた。

彼らは 重症の仲間を抱え言葉もなくその跡地に立った。

誰もがあまりの惨状に ― 今までさんざん荒れた戦場を見てきたのだが ・・・

凍り付いたがごとく、立ち尽くしていた。 

 

「 ― 土地がある。 ここは 俺たちの場所 だ。 」

 

いつも極端に口数の少ない男が 最初に口を開いた。

「 ・・・ ジェロニモ ・・・ 

「 俺達の場所 だ。 全員もどってきた ― 」

「 そ そうだね! うん、 皆いるんだよね、最高だよ! 」

「 ふん。 地下の施設はなんとか無事だし な。 」

「 ― 左様。 諸君 始めようではないか。 

「 アイヤ〜〜〜 地下基地の簡易厨房、無事やよって、食べるもんは任せてや〜〜 」

「「「 博士 ・・・ ! そうですよね! 」」」

皆 振り返ってギルモア博士を見つめた。

「 ・・・ 諸君 ・・・・ そう  そうじゃな ・・・! うむ ・・・  」

博士はサイボーグたちの顔を見回し 疲れた顔にそれでも笑みを浮かべた。

 

「 博士! 皆!  なにをしているの?? 二人を病室へ!! 」

紅一点が文字通り真っ赤な顔で駆けてきた ― 

「 ・・・ うわ〜〜 怒ってるねぇ〜〜 

「 怒髪天 ・・・ やな。 」

「 おい 彼女の言う通りだ。 ごちゃごちゃ言ってないで 行こう! 」

「 諸君 慎重に頼む。  あとはワシの出番じゃな。 

「 博士、 お願いしますっ! 

「 博士〜〜 ワテらに出来ること、何でん言うてや〜〜 」

「 ・・・ ありがとう 諸君! 」

地下帝国での闘いの果てに 仲間の二人は半死半生の状態なのだ。

 

  でも! ともかく二人とも戻ってきてくれたのだから ― !

 

サイボーグ達は < 普通の日々 > を取り戻すべく、再び働き始めた。

 

 

 

「 ―  まあ!  咲いたわ〜〜 きゃあ 可愛い〜〜〜  」

フランソワーズがテラスで大騒ぎをしている。

「 ・・・ ? なにがどうしたって フラン? 」

ジョーは笑いつつ彼女に声をかける。

「 あのね ジョー!  うめこちゃんのつぼみがね! ひとつだけだけど開いたの!

 ねえねえ これ・・・ いい香がするのでしょう?  」

「 うめこちゃんが?  それは是非見なくちゃなあ 」

「 ええ ねえ 来て 来て〜〜 」

「 わかったよ。  よいしょ・・っと ・・・ 」

彼は杖を引き寄せ かなり苦労してソファから立ち上がる。

「 ジョー ・・・ 来られる?  手伝うわよ? 」

「 お 言ったなあ?  ふん テラスまでなんてカルいカルい ・・・って 」

「 ― がんばって ・・・ ! 」

顔を上げれば あんなにはしゃいでいた彼女は真剣な眼差しでこちらを見ている。

「 ん ・・・ よ・・・っと・・・ ジェットはもうすぱすぱ歩いてるんだもんな〜

 ・・・く・・・・そ〜〜〜 」

「 ・・・・ ! 」

 ズ ・・・ ズズ ・・・ ズズ  ズズ ・・・

ジョーは杖を使いつつも 意のままにならない脚を必死で操作する。

ギルモア博士の懸命の処置で身体の機能は完全に修復された。

しかし 人工の肢体が生身の脳の指令と馴染むには時間がかかる。

ことにジョーの損傷度は甚だしく 目覚めてからも彼の身体はなかなか本人の意志通りに

働かない。

 

  ― コト。  カツン。  ・・・どうにかテラスまでやってきた。

 

「 ・・・ と! 来たぞ! 」

「 すごいわ! あ ・・・ そこの段差 気をつけて 」

「 うん ・・・ よっと 〜  ふぁ〜〜〜 ・・・! 」

ほんの数歩、本来のジョーなら一跨ぎ、といった距離を、四苦八苦してやってきた。

額には汗が滲んでいる。

「 ずいぶん動くようになったのね!  あとちょっとじゃない? 」

彼にタオルを渡しつつ フランソワーズは楽し気に言う。

「 そう願いたいけど ・・・ まだ細かい神経系がうまくバランスがとれなくてさ・・

 まあね あれだけの損傷だからむりないけど ・・・ 」

「 焦ることないのよ、ジョー。 ずいぶん楽に動けるようになったじゃない? 」

「 でも! ジェットはもうピンピンしているじゃないか! 」

「 ・・・ ジョー ・・・ 無理 言わないで・ 」

青碧の瞳が懸命になだめる。

「 ― あ ・・・ ごめんね ・・・ なんかちょっといらいらしてるね、ぼく。 」

「 のんびりしていいのよ。 ゆっくりしましょう。 だってほら・・・ここまで

 歩けるようになったじゃない?  今はホリディだと思いましょうよ 」

「 うん ・・・ あ〜〜〜人生の休暇かもしれないなあ〜  あは このトシで ・・・ 」

「 ね! ほら 見て!  うめこちゃん がね、ひとつだけなんだけど咲いたの!

 可愛いわぁ〜〜〜  花びらが え〜〜っと ひとつ、ふたつ・・・ 五枚あるのね〜 」

「 あ〜〜 咲いたんだね。  焼け焦げちゃったからもう無理かなあ〜って

 思ってたんだ。 」

「 わたしもね、葉っぱも出てこないから枯れちゃったのかなあ〜ってがっかりしてたの。

 ねえ うめこちゃん は 葉っぱのない木なの? 」

「 葉っぱ?  あ〜 梅はね、花の後から葉っぱが出るんだよ。 」

「 まあ そうなの? ふうん ・・・ 全部咲くといいなあ〜 」

「 そうだね。 なんか ・・・ 嬉しいね、焦げちゃった木でもちゃんと生きているんだね!」

「 そう ・・・ そうよね。 

フランソワーズは滲んできた涙を隠そうとはしない。

家の中からでも見られるように、と テラス近くに植えたのだが それが仇となった。

邸が焼け落ちる時に巻き添えを食う形となり、白梅の幼木は半分が焦げてしまった。

 

「 あ〜〜〜・・・ こりゃもうダメかなあ? 」

焼け跡を片づけている時に グレートが発見した。

「 どれ? あ〜〜 フランの木だね。 う〜〜ん? 皆みたいに塀の近くに植えておけば

 助かったかもしれないのにね。 」

「 だ な。 じゃ これは片づける か? 」

「 あ でも一応 本人に了承を得ようよ? 」

「 これ。 生きている。 」

グレートとピュンマの前に ずい、とジェロニモが割り込んだ。

「 わ・・・  ああ ジェロニモ〜〜  そうなんだ? 枯れてない? 」

「 うむ。 それにこれはフランソワーズの木 だ。 」

「 そうだな。 お〜〜〜い マドモアゼル〜〜〜〜 」

グレートが声を上げると 彼らの後ろに彼女は立っていた。

「 ここにいるわ。 ・・・ このままにしておいて。 邪魔になるでしょうけど・・・ 」

「 邪魔なことはないよ。 フランソワーズ、これは君の木だからね、君の好きにしようよ。

「 ありがとう ピュンマ。 ねえ この木・・・ 生きてるって本当? 」

「 うむ。 焼け焦げているが 生きている。 」

「 そう! それならわたし、しっかり世話をします。 しっかり肥料も上げるわ。 」

「 それがいいよ、 うん。 」

「 … ありがとう ・・・

「 そうだな。 そうやって庭仕事でもする方がいい。 気分転換にもなるし な。 」

「 あら ・・・ 」

「 そうそう。 アイツはちゃんと回復しているって博士も言っていただろう?

 マドモアゼルが始終看取っていなくても大丈夫さ。 」

「 ふふん、 側にひっついていたいのはよ〜〜くわかるが な〜 」

「 もう〜〜〜  そんなひっついてなんかいないわ! 」

「 そ〜かな〜〜〜 こっそりチュってしてるんじゃないかあ〜〜 」

「 ピュンマっ !  」

「 あれ 顔が赤いよ? さ〜て〜〜は 図星だった? 」

「 もう〜〜 」

「 ほっほ〜〜〜 ええやないか〜  コイビトさんらやさかい当たり前やん? 

 仲良きことは美しき哉 やで。 」

「 ジョー、木と一緒だ。 枯れはしない。 」

  ぽん。  大きな掌が亜麻色の髪を撫でる。

「 ・・・ そ そうね ・・・ そうよね! 」

「 今度の春には 花咲きまっせ〜〜 ほいで実ぃも生りまっせ〜〜 」

「 ああ  その頃には ここも ― そして アイツも 」

「 そうだな。 」

「 うん ・・・・ 」

サイボーグ達は 瓦礫だらけの庭と邸の焼け跡をながめ ― 力強くうなずいた。

 

   そうよ ね・・・!

   ジョーがきっと 回復するって信じてるもの。

 

   ね? え〜と・・・ そう! うめこちゃん だったわね?

   一緒に頑張ろうね。

 

フランソワーズは焼け焦げた木に必死で話しかけいた。

その年、冬はゆっくりと過ぎた。

 

 

梅が一輪 そして また一輪と開いてゆく。 はなの数だけ暖かく感じるのは偶然だろうか。

「 ・・・ あ〜〜 こんな花だったんだ 〜〜 

「 ? ジョー? テラスにいるの? 」

ジョーはこの頃 積極的に屋外を歩き始めた。

まだ瓦礫の多い庭を 杖を頼りに散歩している。

「 うん ・・・ なんかここって暖かいよね 」

「 え ・・・ そう? 風が当たって寒いのじゃない? 」

フランソワーズがエプロン姿のまま 出てきた。

「 そうでもないよ。 それよりもさ 梅の花ってこんな感じだったんだな〜って 」

「 あら うめ は教会のお庭にあったって言ってたじゃない? 」

「 うん。 だけどね〜 遠くから見てるだけだったから・・・

 教会の庭の木には触っちゃいけなかったんだ。  遠くから白い花だな〜って見てた。 」

「 まあそうなの? それじゃわたしとたいして変わらないわね〜〜

 うわ〜〜〜 随分咲いたわね〜 あとちょっとでつぼみが全部開くわね! 」

「 ウン ・・・ 少ないけど 皆咲いたらいいなあ・・・ 」

二人で並んで 焼け焦げて不自然な恰好の木にしょぼしょぼ咲いた花を眺める。

「 ねえ これだけでもこんなに可愛いんですもの、普通に咲いたら ・・・

 ものすご〜〜く素敵ね! 」

「 そうだね ・・・ 来年は もっと咲くかなあ・・・ 」

「 きっと!  あのね、園芸の本で勉強したの。 肥料のこととか・・・

 ね? 今度 街まで行って肥料を買ってくるわね。 」

「 ぼくが運転するから ・・・ 一緒に行ってもいい  ・・・? 」

「 ― ジョー ・・・! 」

「 うん、 頑張る。 この脚がもっと自由に動くように ! 」

「 ・・・・ 」

細い手がするり、とジョーの手を掴んだ。 彼も きゅ っと握り返す。

「 !  あ  ごごめん ! 」

ジョーは 慌てて自分の手を離そうとした。

「 ― 謝らないで ・・・ ジョー  」

「 ・・・ フラン ・・・ ごめん 」

「 ほら また ・・・ 」

「 あ。」 

  えへへへ ・・・・  うふふふふ ・・・・  

ぎこちなく手を握りあい 見つめあい ― 笑った。

 

春は直に盛りとなり、ジェロニモの桜もちらほらと花を咲かせた。

初夏には < うめこちゃん  > にも数個のまあるい実が生った。

「 かっわいい・・・ 実にこまかい毛が生えてるわ!  ねえ 触っても平気? 」

「 あ うん 多分 ・・・ 

「 そう? ・・・ うわ〜〜 なんだか仔猫ちゃんみたい・・・

 まんまるで青くて ・・・ 白い花だったのにね〜 

フランソワーズは もう夢中だ。 毎日梅の実を眺めて騒いでいた。

「 ねえねえ これってどのくらいで収穫するの? 」

「 う〜〜ん? もういいかも・・・ 梅酒とか梅のシロップとかできるんだって。

 そうそう梅干しも 」

「 そうなの???  う〜〜〜ん 梅シロップがいいかな〜〜 」

「 それじゃ 採ろうか? 」

「 わ〜〜〜 ハサミとかいる? 今もってくるわ! 」

ほんの少しの実はすぐにしゅうかくされ それでも籠に盛り上げることができた。

「 ね・・・? ちょっと良い匂いするかも・・・ ? 」

「 いい匂い? そうだっけか・・・ 」

ジョーは首を捻るが 彼女は丸い実をそっと掌に転がし顔を近づける。

「 ね? ひとつだけ今晩のデザートにしない? 」

「 ええ??? 」

「 ひとつだけよ。  どんな味がするのかしら〜〜 」

「 だ ダメだよっ 生の梅は食べちゃだめだ! 」

「 ―  はい? 」

ジョーの剣幕に フランソワーズはぽかんとしている。

「 生の梅の実にはね!  青酸があるんだ。 ほら あの青酸カリと同じ!

 生のを齧ったら ― 死ぬよ! 

「 え ・・・ 」

彼女は実を掌に乗せたまま 固まっている。

「 あ 触るのは大丈夫。 生では毒だから砂糖や焼酎に漬けるのさ。 

「 そう  なの ・・・ うめこちゃんの実は 毒 ・・・ なの ・・・ 」

「 うん。 でも加工すれば大丈夫。 日本ではず〜〜っと昔からそうやって食べてきたんだって。 」

「 そう ・・・ うめこちゃんは花も実もこの国のヒト達に好かれているのね。 」

「 うん。 ―  きみと同じだね ・・・ 」

「 え なあに? 」

「 い いや! な なんでもないよ ・・・ 」

ジョーはぼそぼそ言い訳をいい、 赤くなった顔を前髪で隠してしまった。

 

   ???  なんなの ・・・?

   また 不具合が発生したのかしら ・・・

 

   でも 元気そうよねえ ・・・

 

 

海に近い邸で きらきらと明るい夏を過ごした。 バナナの木はぐんぐん伸びてゆく。

フランソワーズは毎日 木の発育状況を熱心に観察している。

「 うわあ ・・・ ねえ ねえ これってバナナの実が生るの? 」

「 う〜〜ん 今年はちょっと無理だと思う。  まだ若い木だし ・・・

 ほら これも結構焼け焦げちゃったからね〜 」

ジョーも水やりをしつつ 大きな葉っぱを見上げている。

脚の機能が完全に回復すると、ジョーは庭の手入れ全般を引き受ける、と宣言した。

「 え〜〜 大丈夫? お水を運ぶのだって結構大変でしょ? 」

「 おいおい・・ ぼくは 009 なんだよ?

 それにね 脚そのものの機能は脳神経とやっと馴染んだけど バランス感覚がさ・・・ 」

「 あ〜 そうねえ ・・・ ジョー まだよく転ぶわよね。 」

「 うん ・・・・ アタマの中の感覚と実際の脚の動きがさ〜 イマイチ・・・

 こう〜 しっくり来ないんだ。 その訓練のためにも庭仕事は最適さ。 」

「 そう。 それなら ― これからお庭のことはジョーにお願いします〜 」

「 了解〜〜  花壇の復活と垣根の木の管理だな。 うん ・・・ 」

「 あ できたらねえ・・・野菜畑とかお願いできる?

 この前 駅の方のスーパーでミニトマトやパセリの苗を売っていたの。

 あれがウチの庭にあったら楽しいし、採り立てはやっぱり美味しいと思うのよ。 」

「 よ〜〜し ・・・・ この夏は 農業に挑戦〜〜 」

「 収穫 期待しているわね。」

夏の日差しの下で ジョーは畑仕事にも精をだすことになった。

海に近い荒地を掘り返し 土を入れ替え肥料を入れ ― トマトやらハーブ類の苗を植えた。

「 ふ〜〜ん  目下の問題は水やりと害虫駆除だな〜〜  よぉし・・・ 」

せっかくの夏だったが 海はまだ眺めているだけだった。

それでも早朝 渚を散歩した。  汀で一緒に日の出を眺めた。

「 ・・・ 気持ちいいわねえ ・・・ 」

朝風に 亜麻色の髪が靡く。

「 ・・・ うん ・・・ 最高だよ ・・・ 」

 

  さくさくさく・・・さくさくさく ・・・

 

二つの足跡はごく自然に寄り添い合い 二つの手はしっかりと繋ぎあっていた。

 

 

そして 秋。 垣根の木々たちは あるものは色づいた葉を散らした。

「 まあ キレイな葉っぱ。  ファンみたい ・・・ これは大人の木ね。 」

フランソワーズは庭掃除の手を止め 黄色の小さな扇型の葉を拾う。

「 カーキー君?  元気ですか〜〜〜 アナタの艶々の葉っぱもいい色になったわね 」

箒を持ったまま これもひょろり、とした柿の木に話しかける。

「 ジョーと一緒に元気になったわね!  カーキー君はどんな花が咲くのかしら・・・

 実はいつ生るのかなあ ・・・ 」

 

 ―  カシャン。  門が開いた。

 

「 あら・・・ あ  ジョー !  お帰りなさ〜〜い  」

彼女は箒を放り出し門へと駆け寄った。  

「 ただいま〜〜  裏山も紅葉がキレイだったよ 」

「 そう?  ね 脚は? 大丈夫? 」

「 うん。  もうほとんどオッケーかな。  かなりの距離を歩いたけど・・・

 大丈夫だった。  ― 早く加速装置を稼働してみたいよ。」

「 ・・・ 無理はだめよ? 博士からオッケーがでるまでは 」

「 はいわかってマス。 それまでは地道に他の機能回復に努めますって。

 ― ほらおみやげ〜〜〜 

「 ??  なあに? 」

「 両手をだしてくれる? こうやって・・・くっつけて さ 」

「 え ええ・・・ こう? 」

 

   ころころころり。 

 

ジョーは 彼女の掌の中にドングリをぽろぽろ注ぎ始めた。

「 わ??  な なあに??  マロン? ・・・ 違うわねえ? 」

フランソワーズは すべすべころころした感触に歓声を上げた。

「 ふふふ ドングリさ。 椎や橡の実なんだ。 裏山にたくさん落ちててさ

 思わず拾っちゃったんだけど ・・・ 」

彼は次々にポケットから掴みだしてきた。

「 きゃあ〜〜〜 もうこぼれてちゃうわ〜〜  ね これって食べるの?? 」

「 あ〜〜〜  ちょっと無理だなあ〜 これはね、おもちゃなんだ。 」

「 おもちゃ??? 」

「 うん。 ・・・ これ ちょっと洗うね。 それから ― 遊ぼうよ! 」

「 え ええ ・・・ 」

ジョーは 彼女の手からドングリを回収すると上機嫌でテラスへと回った。

 

 

  カツン・・・!  あ〜〜〜 ダメだあ〜〜〜

 

  コツ! あ! 回ったわあ〜〜 やったぁ〜〜

 

  あ いいなあ〜〜  くそ〜〜〜 

 

リビングのテーブルは さっそく独楽回しの会場になった。

「 カワイイわね・・・ 眺めているだけでも楽しいわ。 」

ころころ ころり。  かつん かつ〜〜ん ・・・

フランソワーズは まるっこいのや細長いのをそのまま転がして楽しんでいる。

「 うん そうだね〜 けどね、もっとちゃんと回るんだよ。

 え〜と・・・ ねえ ウチの爪楊枝とかある? 」

「 つまようじ?? ・・・ あ〜〜〜 あの細いの? 

 串カツとか焼き鳥に使う竹のスティックね 」

「 ぶ〜〜〜 残念、それはもうちょっと長いだろ。 

 ほら 張大人とこの店でテーブルに置いてあったよね? こんなくらいの・・・ 」

ジョーは手で大きさを示す。

「 ・・・ ! あ〜〜〜 アレね! ちょっと待ってね〜〜〜 」

フランソワーズはキッチンに駆けて行った。

「 は〜〜〜い ほら!  これでしょう?? 」

「 お〜〜〜 サンキュ。  で これをだな〜〜 まず適当な長さして ・・・ と。

 次にどんぐり。 まあるいのがいいな〜〜 うん これこれ・・・ 」

「 このまんまるのでいいの? 」

「 うん。 細長いのも作るけど〜 まずは これ。 え〜〜と? なにか突き刺すもの、

 あるかなあ。 」

「 突きさす??? 」

「 そ。 ここに穴あけて、爪楊枝を刺すんだけど 」

「 あ それならアイスピックはどう?  あれなら結構先が尖っているわ。 」

「 いいね  どこにあるの? 」

「 そこの・・・ 引き出し。 栓抜きとかワインのオープナーとかと一緒。 」

「 あ〜 ・・・・あった あった・・・ これで〜〜 と えい! 」

たちまちオカメドングリの独楽がいつくつか出来上がった。

「 ほら どうだい? 」

「 カワイイ〜〜〜♪  で これを回すのね。 」

「 うん ・・・  よっ・・・・ あれ ? 」

ジョーの指先はドングリに刺した細い軸を摘み捻ることができない。 

いや できない、というより細かい微妙なチカラの配分が上手く働かないらしい。

「 えい・・・っと  あ〜〜〜 ダメだなあ・・・ 」

「 ね わたしにやらせて?  ここをこう〜〜〜もって ・・・ 」

 

  ひょい、 と細い指先はいとも簡単にドングリの独楽を回す。

 

「 あ 上手いねえ〜〜  う〜〜ん やっぱまだ末梢神経が完全じゃないなあ〜 」

彼はため息をつき 自分の指先を眺める。

「 あ〜らあ ?  ただ単にブキッチョなだけじゃないのぉ〜〜 」

「 お。 言ったなあ〜〜 よし みてろよ〜〜  」

ジョーはかなりムキになってドングリと対峙し始めた。

 

   まあ ・・・ コドモみたいねえ・・・ 

   あ。  そうか。  機能回復訓練なのね

 

フランソワーズはそっと頷きつつ、 笑って眺めている。

訓練、とわかっていても遊びの延長だと思えば 楽しい。

「 ん〜〜〜 ここに軸を刺すのとかは結構うまく行くんだけどなあ

  なんだって回らないんだ〜〜  えいっ!  ・・・あ〜〜〜 」

小さな手製の独楽は 彼の手から飛び出してしまったり横に転がったり気まぐれだ。

「 う〜〜ん ・・・ これはかなりテクニックが必要かも ・・・ 」

「 うふふふ〜〜〜 ジョーが下手っぴなのよ。 ちっちゃい頃からなんじゃない? 」

「 あ トラウマをイジッたなあ〜〜 ふん 今に見てろよ〜〜 」

「 ふふふ いつでも挑戦を受けて立ちますわ。 ほ〜っほっほっほ・・・・ 」

「 ― そういうの、どこで覚えたんだよ ・・・ 」

「 ふふん♪  ねえ これ・・・ すこしもらってもいい? 」

「 ?? いいけど・・・ あ これは食えないよ? 」

「 まあ〜〜 食べません!  ちょっとね、カワイイから ブローチとかにしてみようと

 思って・・・ 」

「 あ〜〜 いいね! 秋っぽくて 」

「 でしょ? ジャケットやセーターに止めてもいいし・・・ あ 帽子にも〜〜 」

「 うんうん きみにぴったりさ。 」

「 ありがと♪ 

秋の実りを挟んで 二人は笑顔を交わす。

 

   ああ ああ  こんな些細なことが・・・うれしいの・・!

 

静かな日々が穏やかに 再建されたギルモア邸に流れていった。

秋は深まってゆく。 温暖なこの地域、季節の歩みは少しゆっくりだったかもしれない。

 

 

その日は 夜明け前から風が吹きはじめていた。

 

 ガタン ガタガタ ・・・ ガタガタガタ ・・・・

 

「 なんだか風が強いわねえ ・・・ 」

フランソワーズは テラスへのドアにさっきから張り付いている。

「 うん? あ〜〜 台風なみの低気圧って予報で言ってたからね〜 」

ジョーはリビングのソファで 本に没頭している。

「 ・・・ たいふう ? 」

「 うん。 嵐の大型なヤツ。 夏によく来るんだ。 今年は珍しく直撃はなかったけど 」

「 ふうん ・・・ 」

「 大丈夫、この家は台風くらいなんともないさ。 」

「 それはわかってるけど ・・・ この風が ・・・ 」

 ガタタタ ・・・  また窓が大きく鳴った。

「 きゃ ・・・ 」

「 平気だよ。 気になるんだったらカーテンぴっちり閉めて窓から離れればいいさ。 」

「 う・・ん ・・・ 」

彼女はカーテンを引き、浮かない顔でリビングに戻ってきた。

「 ねえ ・・・ たいふう って毎年くるの? 」

「 うん だいたい ね。 ここいら辺りは通過点だからな〜〜 しょうがないよ。 」

「 ふうん ・・・ わたし、もう寝るわね。 」

「 あ おやすみ〜〜 」

「 お休みなさい。  ジョー 夜更かしはダメよ? 」

「 はいはい。  このチャプターを読み終えたら寝ます〜 」

「 ええ じゃあ ね 」

「 うん ・・・ 

ひらひら手を振ると 彼はまた本にもどってしまった。

ほぼ完全に機能回復し、 彼は博士の助手としての勉強を始めていた。

  ― 自分自身のコトをしっかり知らなくては ・・・!

ジョーはまず機械工学の基礎から学び出している。

 

   ジョー ・・・ よかった ・・・

   ― わたしも 頑張るわ!

   やっぱり もう一度踊りたいの! 

 

フランソワーズも活力がふつふつと湧いてきている。

 

  ガタタタ ・・・ ガターン ・・・  ビュウ〜〜〜〜

 

「 きゃ ・・・ !  ああ ヤダヤダ・・・ もう〜〜 早く寝るわ! 」

彼女は自室に駆けてゆき 早々にベッドに潜り込んだ。

 

 

  カタン。  ドアを開ければリビングには朝日がいっぱいに差し込んでいた。

昨夜は台風紛いに発達した低気圧のため 一晩中ご〜ご〜ざ〜ざ〜 荒れていたのだ。

「 う〜〜〜ん ・・・ 晴れたな〜〜 遅めの台風一過ってとこか・・・ 」

ジョーは欠伸しつつ カーテンを開ける。

「 うわ〜〜〜 こりゃ昨夜は随分荒れたんだなああ〜〜  ふうん? 」

 コトン ・・・ 小さな足音が聞こえた。

「 あ・・・ おはよう〜〜 フラン。 」

「 ・・・ おはよう ジョー 」

「 ・・・ ん? 」

低い声に すこし驚いて振り向けば ― 寝不足の蒼白い顔が見えた。

「 あれ どうしたの?  徹夜 ・・・? 」

「 ―  明け方まで眠れなかったの ・・・ 風の音と波の音が・・・ 」

「 え この邸はシェルターも兼ねているから少々のことじゃ壊れたりはしないよ? 」

「 でも・・・だって一晩中 ・・・ ご〜ご〜 ガタガタ じゃ〜じゃ〜・・・ 

 もうお布団の中に潜ったけど ― 聞こえるんですもの〜〜 」

「 あ・・ それで 徹夜? 」

「 したくてしたんじゃないわ〜〜 ああ ・・・ ねむ〜〜い・・・

 ジョーは平気なの??  」

「 ああ ぼくはこの地域の出身だからね〜  台風とか慣れてるんだ。

 ね、もしかして ・・・ 台風とか嵐って初めて? 」

「 うん。  パリに台風はこなかったわ。

 ・・・ あの島は絶海の孤島だったけど ― <演習> の時以外は

 たいてい地下の研究所にいたから ・・・ 景色なんか見なかったもの。 」

「 あ そっか ・・・ それなら眠れないよね。

 ごめん ・・・ 気が付かなくて・・・ わかってたら一緒にいたのに 」

「 え!? い 一緒に ・・って・・・ 」

「 あ?! そ そ そんな意味じゃなくて〜〜 あ〜〜〜 その〜〜〜

 うん! 飲み明かす とか ・・・ 」

「 飲み明かす?   ジョー、 あなた未成年でしょう?? 」

「 ・・・ ウン ・・・  」

「 それじゃダメよ、飲み明かすなんて〜 

「 あ  う うん ・・・ あ! それじゃ さ。 

 朝ごはん 終わったらすこし散歩しないかな?  海岸もいいけどちょっと裏山の方も

 歩いてみないかい。 」

「 あら いいわね。 外の風に当たったら少しはすっきりするかも・・・ 」

フランソワーズは 相変わらずの眉間に縦じわ である。

「 ま 気分転換にはなるよ   さあ 食事だよ〜〜

 フラン、カフェ・オ・レ だけ なんてダメだからね!  」

「 わかってますってば・・・ 」 

「 よ〜し それじゃ  ご〜はんだ ごはん〜〜〜だ♪ 」

「 あ  あん・・・・ 」

彼は彼女の肩に後ろから手をおいて とんとんとん・・・と押して行った。

 

 

「 あら。 垣根の木 ・・・ 皆 無事なのね! 」

「 あ〜〜 あの程度だったら樹木はなんとかなるさ。 

「 ふうん 

食後、二人は早速にギルモア邸の庭に出てみた。

庭は ― 葉っぱやら小枝が散乱していたが思ったほど壊滅的な様相ではなかった。

「 あんなにご〜ご〜 風が吹いていたのに ・・・ あら 花壇の菊も ・・・ 」

「 しっかり根を張っているしね ・・・ あ〜〜〜 バナナはちょっと無理だったみたいだ ・・・」

「 あら 本当・・・ あ でも見て? 倒れてるだけみたい。

 ほら・・・ 折れてないわ、このままそうっと起こしておけば 」

「 そうだね!  補強用に支柱を立てておこう 」

「 そうね。  あら ・・・ キレイ ・・・ 」

「 うん? 」

「 ほら ・・・ 花壇、滅茶苦茶になってるけど ほら。 菊の花、ものすご〜〜く

 なんていうか  魅惑的 ・・・オブジェみたい・・・  」

「 うん こう〜〜露が降りててきらきらしている ・・・ 」

「 まあ ・・・本当ね ・・・ いいわねえ〜〜〜 」

フランソワーズは 台風の置き土産をじっくりと味わっている。 

垣根から庭の花壇、そして裏庭 ・・・ 特に壊れた個所は見当たらなかったが

枝やら葉がごっそりと片方に積み上がっていた。

「 あら キレイな落ち葉がいっぱい〜〜  これシオリとかにしようかしら。 」

「 あ〜 裏山から随分飛んできたなあ 

「 ウチの木達は皆元気よね ・・・ あんな嵐の後でも 」

「 そうさ!  ― だってアレはぼく達の木だもの。

 ぼく達だって 嵐の中でもみくちゃになったけど ―  こうしてここにいる。 」

「 そうね ・・・そう ね!  わたし ― この庭が このお家が好きだわ。 」

「 うん。 ぼく達のホームだもの。 」

「 ・・・ ええ。  あのね ジョー? 」

「 うん なに。 」

「 嵐の夜は ― 一緒にいて ね。 」

「 へ ??? 」

   

   ちゅ。 ―  柔らかいキスが ぽけっとしてる茶髪青年の唇を掠めた。

 

  う  ・・・  わ???  うわ うわ〜〜〜〜♪ わっほほほほ〜〜〜〜♪♪

  た 台風さ〜ん どんどん来てくれ〜〜 うぇるかむ〜〜〜!

 

 

Last updated : 11,11,2014.           back     /     index     /    next

 

 

**********   途中ですが

ギルモア邸の四季?? いやいや 恋人たちの季節 のつもり・・・

あ まだ恋人同士以前 かも ・・・ じれったいねえ〜〜

え〜  続きます!